園家千軒物語(大津波悲話)

園家千軒物語

園家山にまつわる民話

むかし昔、園家砂丘がまだなかった頃、ここに大きな港町があって園家千軒といわれ、日本随一のよい港として栄えていた。
その頃、この町に1老婆が住んでいた。
学問があって、何でもよく知っているので、町の人たちは何事によらず教えを乞うた。

ある晩のこと、老婆は星を見ているうちに突然気が狂ったように「町の衆よ、大変だ、津波が来るぞ、逃げろ逃げろ」と叫んで町中をかけまわった。
町の人たちは、「婆ァ、とうとう気が狂ったじゃ」と、誰も相手にしなかった。

ところが、そのうちに突然海鳴りがしたかと思うと、大津波が押し寄せ、あっという間に、家も人も跡形もなく押し流され、あとに大きな砂丘ができていた。
遠く離れた小高い丘のうに、かの老婆だけがただ一人立って園家の砂丘を見つめていた。
眼には涙がいっぱいたまっていたという。

園家砂丘の下には今も千軒の屋敷のあとがあると信じられ、正月になると地の底からお寺の鐘の音がきこえるという話である。