扇状地
元禄2(1689)年初秋、俳聖 松尾芭蕉は、「奥の細道」の最終工程の北陸路にさしかかり、「くろべ四十八ヶ瀬とかや数しらぬ川をわたりて那古という浦に出・・・」と紀行文に記し、「わせのかやわけ入右はありそ海」の句を残しています。
北アルプスから流れ出る急流黒部川は、洪水時に山を削り、深い谷を下り、大量の水と土砂を運んで、愛本を扇頂とする日本でも有数の典型的な黒部川扇状地をつくりました。
度々の洪水で川筋は定まらず、氾濫のたびに幾筋もの分流をつくる乱流した状態であったので、黒部四十八ヶ瀬とも呼ばれ、扇状地に暮らす人々や旅人の通行の妨げとなってきました。
しかし、扇状地の人々は堤防の築造や用水の建設など、永い川との闘いの中で、黒部川を治め、今日の豊かな田園地帯を作って来ました。
黒部川の両岸の堤防に残る「かすみ堤」など、自然の猛威と戦った先人の知恵が今も生かされています。
園家山の東部海岸部一帯は地下水が豊富で各地で自噴水が見られます。
園家山の所在する入善町は、立山と後立山との間を一直線に激しく流れる黒部川よって形成された扇状地の中央に位置しています。
北は日本海に面しており、海岸線約 11.5kmを底辺とする南に尖った三角形の形をしています。
立山連峰に降り積もった雪が川を下り、扇状地を流れる表流水となり、あるいは地中に浸透し伏流水として流れ、地下水となります。
この伏流水は扇状地の扇端部で自噴しており、豊かな湧水地帯を形成しています。
地下水の豊富な入善町では多くの家が地下水を使って生活しています。
黒部川扇状地湧水群
黒部川扇状地の扇端部には、地下水の一部が地表に湧き出す湧水、自噴水が各所にあります。
湧水は古来より「清水(しょうず)」とも言い地元住民の生活を潤しています。
古来園家山の東部には海浜植物や河川植物が混在する湖沼、よしわらがあり、水棲生物が沢山いました。
現在その面影を偲ぶことは出来ませんが、園家山湧水池としてガマ、ツルヨシ、ヒルガオ、スイレン、アキグミ、ハマナス等の植物が植えられています。
水は生命の源であり、明日への活力を与えてくれるものです。
水の大切さ、美しい水のすばらしさを広めるために、環境庁では、身近な清澄な水であって、古くから地域住民の生活に溶け込み、住民自身の手によって保全活動がなされてきたものとして、昭和60(1985)年に「名水百選」を選定し、黒部川扇状地湧水群もその1つに選ばれました。
この湧水群は、黒部川の水が扇状地の砂礫層に浸透し、再び自噴水として、また、湧水として扇状地の扇端の海岸付近に湧き出しているものです。
地下数十メートルから湧き出るこの水は、掘り抜きの水と呼ばれ、今も生活用水としてこの付近の民家で利用されています。





